教本「日本の歴史」と教科書「日本史B」

 5月27日、1905年(明治38年)のこの日、日本の連合艦隊がヨーローッパから回航してきたロシアのバルチック艦隊を全滅させた。“日本海海戦”である。もし、この戦いで日本が負けていれば、この国は滅びこの土地はロシア領となっているであろう。かつてはこの日が“海軍記念日”とされ、日露戦争・日本海海戦の物語は司馬遼太郎「坂の上の雲」に綴られている。海戦が行われた玄界灘を望む高台(福岡県福津市)に司令長官東郷平八郎を祀る神社が建立されており、毎年この日に春季大祭が行われる。

 ブラジルに移住した先輩(徳力啓三氏)から「知っておきたい日本の歴史」という本が送られてきた。ブラジルに住む日本人子弟のために彼が数年をかけて編纂した歴史教本である。彼が考える「知っておきたい日本の歴史」をコンパクトに(全140頁)にまとめた歴史教本である。この中に「国家の命運をかけた日露戦争」として、乃木希典率いる陸軍の旅順要塞戦・奉天会戦と、東郷平八郎司令長官の下でバルチック艦隊を全滅させた日本海海戦が記述されており、その後のポーツマス条約への経緯が記されている。

 さて現在、日本の高校で使われている「日本史B」の教科書(全417頁)には「日露戦争」についてどのように記述されているのであろうか。旅順要塞戦、奉天会戦、日本海海戦が行われたことは記述されている。しかし、乃木希典・東郷平八郎の名前はない。さらにページを捲って「社会運動」の項には、賀川豊彦・吉野作蔵・山川均・平塚らいてう・市川房江等多くの名前が登場する。

 はたして“日本の歴史”のどんなことを我々は知っておくべきことなのか、何が重要なのか・・・。この「日本史B」教科書を読む限り、その判断軸ははなはだ疑問である。戦前教育の反動なのか、軍人は一切掲載されない、国家観を持たないように、英雄や誇りに繋がらないように、という意図か・・・。そうでないと、文部科学省検定にはならないのであろうか。

 ブラジルでは自国の歴史を小学校から学び、自国の理解を深め、自国への誇りを養う。日本では、自国の歴史を学ぶという位置づけではなく、教科(試験科目)としての日本史を憶えるのである。日本人として日本の国を知ることは当然である。特に、日本の歴史を学ぶことは国家観を養う上で必須の要件である。しっかりと学びたい。

 

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高原 要次