“東大秋入学を教育改革のトリガーに”

東京大学の懇談会が、学部の春入学廃止と秋入学への全面移行方針を打ち出した。世界的に多数派の秋入学に移行することで、留学生の受け入れを増やし、国際的な大学間競争に耐える教育環境を整備するのが狙いだという。

京大など国立大9校に早稲田大、慶応大を加えた11校と秋入学を検討する協議会を設置して5年後の実現をめざしている。  東大がライバルとしている欧米の大学のほとんどが秋入学を実施しており、これが学生と教員の国際交流を阻害していることは否めない。    

 中間報告によると、学部生に占める留学生の割合は米国ハーバード大が10%、韓国のソウル大が6%、中国の北京大が5%なのに対し、東大はわずか1.9%にとどまる。英国の教育専門誌がまとめた世界の大学ランキングでも、昨年は東大の30位が最高で、200位内に入った日本の大学は5校しかない。

 世界では215カ国のうち6割以上が大学の入学時期を9月か10月に設定しており、欧米は8割が9月入学だ。日本も秋入学に移行することで海外の優秀な学生を集めて国際化を図り、「世界最高の教育水準を追求しよう」という狙いである。

 しかし、入学時期を秋にするだけで、国際化が進み、世界最高の水準までレベルが上がるとは思えない。それには、教育の内容そのものが問われるし、海外から学生や教員を日本に引き付ける魅力あるものがあるか、また日本から海外に学びに出る環境ができるかも問われる。

 高校教育と大学院教育との接続での問題を、大きく取り上げて秋入学に反対する方々も多い。いわゆるギャップタームである。しかし、今回の東大の提案が大きな社会的関心を呼んでいるのは、大学教育は勿論、小学校からの6・3・3・4の学校教育制度と、その内容を懸念する人が多いからであろう。

 世界で伍していく文字通りのグローバルな人材を育て、しかも「世界最高水準」を追求するのであれば、単に大学の秋入学に留まらず、初等教育・中等教育から一貫した新たな教育制度を作り上げ、特にその内容を見直し、日本の教育の質をいかに高めるかを検討すべきである。そして、教育によって人を創り、国を創る“教育立国日本”を目指すべきである。 (代表取締役社長 高原 要次)