ロールズ「正義論」 ~ 道徳心発達の3段階 ~

 大学卒業後、十余年在籍した精密機械メーカーの敬愛する先輩(副社長)から「ロールズ正義論入門」という本が送られてきた。ジョン・ボードリー・ロールズが1971年に著した「正義論 A Theory of Justice」の解説書であるが、私はこの本は勿論ロールズという名前も知らなかった。ロールズは、米国の哲学者であり、「正義論」はかなりポピュラーな書籍であるらしい。
 「正義論」では、二つの原理が述べられている。

第一原理:
各人は基本的自由に対する平等の権利を持つべきである。その基本的自由は、他の人々の同様な自由と両立しうる限りにおいて、最大限広範囲にわたる自由でなければならない。

第二原理:
社会的・経済的不平等は次の二条件を満たすものでなければならない。
1.それらの不平等がもっとも不遇な立場にある人の利益を最大にすること。(格差原理)
2.公正な機会の均等という条件のもとで、すべての人に開かれている職務や地位に付随するものでしかないこと。(機会均等原理)
 
 この本、少々難解である・・・。
 その中で、正義・道徳の発達について、興味ある記述がある。
 正義の感覚は人間の社会性の中心的な動機である。正義の感覚がないことは、性格的に欠陥があることを意味する。正義の感覚は良好な条件の下であれば、家庭環境、友人関係や、そのほかの社会的な結びつきの影響で、愛情・好意・友情・同朋意識など生得的情操の一部として、大人になるまでの間に正常に発達する。
 道徳的発達の第一段階は、家庭のあり方が正義にかなっている時、子供が親への愛情をもつ段階。第二段階は、家庭を越えた結びつきによって(友人、隣人など)、仲間・同輩者への忠誠心から道徳的動機を養う段階。第三段階は、抽象的で普遍的な原理原則を見極める道徳的動機を発展させる段階。
 私には6歳の孫娘がいる。彼女の成長を身近に感じる。子どもは、自分に対する親の愛情と信頼によって、少しずつ親の言うことを聞くようになる。子どもはまだ親がそう命じる理由を理解できないが、親を信頼しているから、素直にその言いつけに従う。このような情操が養われると、家の外でも親の言いつけに従うような道徳的動機が身につく(権威の道徳)。次の段階では、つき合う範囲が広がり、友達・クラスメイト・近所の人・スポーツ仲間など集団の中で、自分の位置や役割を見つけようとする。そして集団はさまざまな役割や地位によって構成されていることを知り、その子が「協力する」ことの意義を理解する(結びつきの道徳)。家庭での愛情と信頼を植え付けられ、仲間に対する友情と相互確信を養った後の段階は、特定の人や集団に関わる動機ではなく、抽象的で普遍的な原理原則に対する「全体の善」を希求する段階である。(原理の道徳)
 今6歳の孫娘、まさに幼稚園で「結びつきの道徳」を育んでいる。我が儘だった彼女が、集団の中で協力することを覚え、どう行動すべきか社会のルールを学んでいる。そして、いずれ彼女の祖父と“原理原則”について語る日が来るであろう。楽しみだ・・・。

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