“北辰斜にさすところ・・・”(2) ~映画製作と活動屋たち~

08-0906旧制第七高等学校造士館(鹿児島大学の前身)を舞台とした映画「北辰斜にさすところ」の製作に関し、企画・資金集めから、撮影、上映と深くかかわったことは、何にも変えがたい経験であった。

旧制高等学校の教育とその時代を生きた若者たちの青春を縦軸に、戦争や家族、その後の晩節を横軸にしたこの映画のクランク・イン(撮影開始)は2006年10月、全国公開が2007年12月である。監督は神山征二郎、主演は三國連太郎・緒形直人、他に林隆三、北村和夫、佐々木すみ江、犬塚弘、坂上二郎、永島敏行と、そうそうたる役者さんが顔を揃えている。興行収入は決して満足できる数字ではなかったが、三國さんが「釣りバカ日誌」とこの映画で「毎日芸術賞特別賞」を、神山監督が「日本映画復興会議・復興賞」を受賞されたことは、映画製作委員会としても誠に喜ばしい限りである。

さて映画製作、脚本があがると、監督の召集に“活動屋”たちが集い、撮影現場では、それぞれがプロの技を発揮する。カメラ、照明、美術、衣装、大道具・小道具、音楽、録音、編集・・・。

監督の“よーい、本番!”の声でカチンコが音を立て、撮影シーンが繰り広げられる。 感心するのは、「仕事の指示」が少ないこと、粛々とそして極めて短時間に準備が整い、効率的に撮影が進んでいく。まさに「プロの仕事」、妥協を許さず、詰めの甘さを残さない。

(1) 各人が高い専門技術を持ち、他に依存しない匠の仕事をする。

(2) シナリオの内容や映画製作の全体像の把握と、自分の仕事の位置づけが明確であり、Pro-Actで仕事をしている。

(3) “いい映画を撮る”という目的のために、いろいろなアイデアや改善策が生み出され、仕事の質が継続的に上がっている。 ロケは数ヶ月に及ぶ。ロケ地の宿舎や飲み屋では、活動屋たちが酒を飲みながら口角泡を飛ばして映画作りを熱く語る姿をよく見かける。文字通り、彼らは“活動映画”が好きで好きでたまらないらしい・・・。

三國連太郎さん、齢87。素敵な方である。シャイで腰が低く、周りの人には分け隔てなく誠実な態度を示される。また、役者さんの多くは礼儀正しく、気遣いもあり、普段は我々一般人と殆ど変わらない。彼らの“芝居”(演技)については、その可否は監督が持つ。納得するまで、何本でも、何時間でも撮りなおしをする。 私も、五高校長“溝渕進馬”役で役者デビューを果たし、エンドロールに名前が出る。何度も何度も「本番」を撮り直し、ようやく監督のOKが出たが、編集後の本番フィルムでは私のセリフはカットされていた・・・。とてもプロの役者にはなれそうにない。(高原要次)